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葉山でつなぐ、心地いい暮らしの知恵

葉山でつなぐ、心地いい暮らしの知恵

「葉月オーガニックショップ」高野辺由美子さん

キャンプで自然に魅せられて、三軒茶屋から葉山へ

「自然って、すごくいいなと思ったんですよね」

横須賀線の逗子駅から、バスに揺られて15分ほど。
葉山・堀内の住宅街にある小さな暮らしの店「葉月オーガニックショップ」のオーナー・高野辺由美子さんに、移住のきっかけをたずねたら、そんなシンプルな答えが返ってきた。

東京の下町に生まれ育ち、
結婚してから10年ほど、三軒茶屋に住んでいた。

夫は世田谷から鎌倉まで、カヌーのために通うほど海が好きなアウトドア派。
3人の子どもたちと、長野や山梨でキャンプを楽しむうちに、
自然のなかで過ごす心地よさを感じるようになった。

夫婦ともに東京育ちということもあり、
お互いの実家にも帰りやすく、自然が豊かな葉山のあたりに
家族で住むのもいいね、と考えるように。

ところが、三軒茶屋に住んでいた高野辺さんたちにとって、
葉山は田舎に引っ越してくるようなイメージだったものの、
いざ不動産屋さんを訪ねてみると、地価は思いのほか高かったそう。

自分たちに本当に合うのかは、住んでみないと分からない。
どのエリアが住みやすいかも、人それぞれ感覚が違う。

そこで、まずは一度賃貸で暮らしてみることに。
2016年の春、家族で葉山に移住した。

何でも手に入る便利な都心からの引越し。
最初に戸惑ったのは、お買い物事情だった。

「え、葉山では、筆記用具や上履きが買えないの?!」

逗子まで出ると駅前の商店街があるが、葉山にはそもそも店が少ない。
年度末に引っ越すも、当初は生活の勝手がわからず、ネットで買うことも多かったとか。

それでも、不便さをストレスに感じるよりもむしろ、自然のそばの暮らしを楽しむ気持ちの方が大きかった。住みはじめると、家族はごく自然に、葉山の暮らしになじんでいったのだ。

「葉山って、ものづくりをしたり、アーティストも多いし、自分の好きなことをやってる人が多くて。そういう人たちとの出会いで、ほんとうに刺激をもらいました。

子どもの幼稚園で知り合うママ友たちも、すごく自由に暮らしているなという印象でしたね」

暮らしを見直し、人をつなぐ場をつくる

現在は、自宅の1階の一角を改装して、小さな暮らしの店を営んでいる高野辺さん。

「店」といっても、玄関をあがって、長男の部屋だった場所を改装した空間だ。
壁に備え付けられた棚に並ぶのは、オーガニックの調味料や食品、自然栽培のコーヒー豆や茶葉など。一つひとつ、高野辺さんが日々の暮らしに取り入れている、信頼の品々だ。
地球にやさしい洗剤と調味料の量り売りも行っている。

本当にいいと思うものを、人に教えてあげたい。
そんな「暮らしのおすそ分け」のような感覚で、2022年に店をひらいた。

都内で働いていた頃は、コンビニ食に頼ることもあったという高野辺さん。

子どもが生まれ、お母さんになったことをきっかけに、
オーガニックの食材など、さまざまなものを暮らしに取り入れるようになった。

そんななか、お店を始めたことにつながる、
環境について考える大きなきっかけが訪れた。

西表島へ家族と旅行に行き、友人のSUPツアーに参加するなど、
ずっと海で遊んでいたときのこと。

海はものすごくきれいなのに、一部の海岸には大量のペットボトルや、
あらゆるゴミが流れ着いていたそう。

「その景色を目の当たりにしてしまって、すごく心が痛くなって。
記録的な大型台風もあり、地球がほんとうに疲弊しているのかもしれない。
ちょっとやばいのかもしれないって、思ったんです」

自分なりに調べたり、環境活動家の方の話を聞きに行ったりするなかで、
日々の何気ない買いものが、からだの健康や自然ともつながっていることに、
ふと気づいた。そこから、自分の暮らしを見直すようになったという。

「できることから無理なく始めていきました。
たとえば、ペットボトルを買わないで水筒を持ち歩くとか。
洗剤を変えるとか。梅干しやお味噌などを手作りするとか。

なるべくプラスチックができないように、自分でつくるというふうにやっていったら、
結果的に、自分がものすごく心地よかったんです」

どんなにおいしいと言われている市販のお味噌よりも、
自分の手をつかってつくったお味噌は、特別においしい。
心もからだも喜んでいるようだった。

そんな矢先に、湘南でお店を営む友人の「オーガニックショップの始め方講座」に気軽に参加したのをきっかけに、物事が一気に動きはじめた。

地方の高校に進学した長男の部屋が空いたこと。
葉山のオーガニックのお店がなくなってしまったこと。
友人から地球にやさしい洗剤のメーカーを紹介されたこと。

さまざまなタイミングの重なりにも後押しされて、導かれるようにして、
2022年9月、「葉月オーガニックショップ」が誕生したのだ。

自然栽培のオリーブを育てる「アサクラ」のオリーブオイルやイタリア食材も。朝倉さんを招いた料理教室も人気。

営業は、週1日のみ。
ほかにPOPUPや、季節の手仕事のワークショップ、
取り扱っている商品の生産者さんを招いた料理教室やお話し会を開いている。

口コミでじわじわと広がり、Instagramの発信だけで、
数ヶ月先のイベントも満員になるほど。

「実際に、つくり手の人たちをここに呼んで、お客さんに会ってもらう機会をつくる。
そういう場をつくることで、その人たちのファンもふえるし、気持ちよくお買い物ができると思うんです。
そうやって、みんなをつなぐ場所をつくりたいと思って、ワークショップを始めました」

心とからだをいたわるセルフケアの時間を、葉山から

葉山での暮らしも10年が過ぎ、3人の子どもたちは中学、高校、大学生になり、
一人ひとりの個性にあった道を歩んでいる。

家族の暮らしを真ん中にしながら、「葉月」という場をひらいている高野辺さんは、
4周年を迎えた今、新たな試みを始めたばかり。
それは、お店を営むなかで見つけた、自分の小さな使命のようなものだ。

「食で人を癒やしたい」という想いのもと、
食を通したセルフケアの会を、自らが案内人となって開催していく。

だれかに癒やしてもらうのではなく、
自分の手で、自分の心とからだをいたわるための時間。

シンプルな料理を丁寧につくりながら、
手を動かし、集中して、無になれる時間を過ごす。

「そういう時間が、日々忙しい今の人たちにとって、
すごく大切なんだなって思ったんです」

都会の暮らしを離れて、人と自然の距離が近い葉山の町で、
商いも暮らしも、丁寧につくっている高野辺さん。

じつは、はじめて葉山を訪れたとき、
「こんなに何もないところに住めない」と思ったことも明かしてくれた。
そこから、キャンプ三昧の日々を過ごすうちに、
少しずつ自然に惹かれ、自分のなかの何かが変わったのだ。

葉山から最寄り駅である逗子駅までは、車で10〜20分ほど。
店の数も少なく、都会の暮らしを知っていると、便利とはいえないかもしれない。

それでも、実際に住んでみて感じるのは、
海や山など、自然から受け取るものがとても大きいということだ。

「とっても疲れているときや、悩んでいるときがあって。
海へ行って、砂浜に地べたに座って、30分でもぼーっとしていれば、
もうこの悩み、ちっぽけだなって思っちゃうんですよね。

あの広い海や空を見ていると、悩みもクリアになっちゃうし、
それは、都内では感じられなかった感覚ですね。日々、感謝!」

澄みきった笑顔で話す、高野辺さんの横顔がきれいだった。

葉月オーガニックショップを訪れるたびに、買いものは「人」から買うのだという、当たり前のことを思い出す。高野辺さんは、一つひとつの商品にまつわる生産者さんの想いや暮らしぶりを、楽しそうに話してくれる。だから、そこで出会ったものは、ただの商品ではなく、「葉月で出会ったもの」として記憶に残るのだ。 オーガニックのことも、環境のことも、詳しくなくても大丈夫。ご近所のあたたかなお母さんのような空気で、いつでも迎えてくれる。そのやさしさがうれしい。
西谷 渉

Interview / text

西谷 渉

@ayumi.nstn
中村ナリコ

Photograph

中村ナリコ

Shonan diary 2026.10.08 thu
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