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山小屋を思わせる、温もりあふれるカフェを辻堂で。

山小屋を思わせる、温もりあふれるカフェを辻堂で。

「Cafe Hütte」望月深雪さん

夫婦で暮らしはじめた湘南で、夢のカフェを開業。

「子どもの頃から、カフェをひらくのが夢だったんです」

朗らかな笑顔を浮かべながら、そう話しはじめたのは、
辻堂にある「Cafe Hütte(カフェ ヒュッテ)」の店主・望月深雪さん。

辻堂駅から海へとまっすぐに続く公園通り。
広い空を見上げながら、のんびりとした街の空気を感じて歩いていると、
10分ほどでたどり着く、隠れ家のような一軒だ。

店内には、アンティークや古家具が飾られ、温かみのあるナチュラルな空間が広がっている。子どもの頃から、古いものに惹かれてきたという望月さんのセンスが光る。

15時すぎ、ラストオーダーの頃に店を訪ねると、まだ2階に数組のお客さんがおり、
そこにはいつものカフェの時間が流れていた。

栃木で生まれ育った望月さんにとって、
忘れられないカフェ体験のひとつは、那須・黒磯のSHOZO CAFEだ。

「田舎の子だったので、SHOZO CAFEに初めて行ったとき、ものすごく衝撃を受けたんです。本当におしゃれで、びっくりしてしまって。今行っても、やっぱり素敵だなと思います」

料理をつくったり、お菓子をつくるだけではなく、
カフェという人が集う空間や、そこに流れる時間に心地よさを感じて、
いつしか小さな喫茶店のようなカフェをひらくことを夢見てきたという。

その想いを胸に、大学では建築や空間デザインを学び、卒業後はキッチンメーカーに就職。働きながら少しずつ資金を貯め、社会人向けのスクールに通うなどして、準備を進めていった。

そんななか、大学の同級生だった夫と結婚。
東京や静岡などで暮らした後、夫の職場が鎌倉だったことをきっかけに、辻堂に移り住んだ。

そして、海の近くのゆるやかな空気が流れるこの街を気に入り、
念願のカフェ開業に向けて、物件を探しはじめた。

望月さんがカフェを開いたのは、2015年のこと。
以来、毎日を淡々と、等身大の店づくりを続けてきた。
今年11年目を迎える「Cafe Hütte」は、地域のママたちや女性客が多く、
子連れにやさしいお店として親しまれている。

自分の暮らしのペースで、ゆっくり働く

「本当に、いい街ですよね、辻堂」

湘南への移住と、カフェのオープンが、ほとんど同時だったという望月さん。
東海道線沿線でいろんな場所を見に行ったなかで、気に入ったのが辻堂だった。

「藤沢はまだ靴で歩いてる人が多いのですが、このあたりって、
Tシャツと短パンとビーサンで、ゆるく歩いている人が多くて。
気取ってなくて、潮風もきもちいい。街も人も、すごくいい雰囲気だなと感じます」

望月さんは、一つひとつ、ゆっくりと自分の言葉を選びながら話してくれた。

「辻堂の海浜公園では、いろんなイベントをしているのですが、
みなさん自転車で行って、シートを敷いてごろごろしたり、本を読んだり。

公園や海で、のんびり自分の時間を過ごしていて。
そういう余白が日常に根づいている街って、なかなか他にないんじゃないかなって」

そんな辻堂での暮らしは、望月さんのカフェ運営にもつながっている。

小学生の子どもがいることもあり、夏休みを長くもうけたり、
営業時間も15時ラストオーダーと比較的早めに設定したり。
土日はスタッフに店をまかせることもある。

けれど、そうした工夫は、「子育てがあるからしかたなく」というよりも、
望月さん自身が大切にしてきた暮らしのペースでもある。

「同じことをひたすらずっとやるのがけっこう好きなんです。
コーヒーを淹れて、野菜を洗って、切って、お客さんとおしゃべりして。
そういう変わらない、淡々とした日々が大好きで、飽きないんですよね」

会社員時代は、毎日せかせかと忙しく動いていた。
けれど今は、ゆっくり風を感じたり、きれいな夕日を眺めたり。
そんな時間も大切にしながら働いている。

「のんびりのんびり。それを許してくれるのが、辻堂という街だと思います」

そんな望月さんの感性は、店づくりにも自然と表れている。

スタッフは全員、子育て中のママ。子ども連れのお客さんが増えるにつれて、
「子どもが食べられるものがあったほうがいいよね」とキッズメニューが生まれたり、
こども椅子やおもちゃも少しずつ増えていった。

「こうしたほうがいいよね」と相談しながら、そのとき必要なものを少しずつ足していく。
こうして11年かけて、今のカフェのかたちができていった。

「家のことも、子育ても、お店のことも。
ゆるくゆるく、がんばりすぎない。
楽しめるところまでしかやっていません。
完璧を求めすぎないこと」

望月さんの自然体な人柄が、
店全体の心地よさにもつながっているんだろう。

山小屋のように、ほっと元気を回復する場所に

店名の「Hütte(ヒュッテ)」は、ドイツ語で「山小屋」を意味する。
社会人になってから登山をはじめ、山の魅力に惹かれていった望月さん。
山で夜を過ごさなければ見れない星空や、
山小屋で出会う人たちとの距離の近さに心を動かされたという。

「山小屋って、あたたかいお母さんがつくったごはんが食べられたりして。
おいしくて、なんだかしんみりするんです。
小さな山小屋だと、オーナーさんとの会話も楽しくて、距離が近い」

それは、11年間続けてきたCafe Hütteにも、どこか通じるものがある。
常連のお客さんの子どもの成長を見守りながら、
季節ごとにメニューを変えて、スタッフと相談しながら店をつくっていく。

「あとは、山小屋で、みんな元気になって『行ってきます』と出ていかれるんですよね。
この店も、お客さんにとって、少しほっとできる場所であってほしいなと思っています」

そんな“山小屋らしさ”は、料理にも表れている。
自宅の前の譲り受けた広い畑では、季節の野菜を育てている。
たとえば、夏にはトマトやナス、オクラ、ハーブなど。
朝の出勤前や、暑い日は夜に収穫し、その日の料理に使うことも。

夏はナポリタンやピザトーストなど、昔ながらの喫茶店らしいメニュー。
冬にはトマトの煮込みやグラタンなど、山小屋で食べるような、あたたかいオーブン料理を。

旬のものを味わいながら、訪れた人がゆっくりと自分のための時間を過ごせるように。

「明日は定休日なので、娘と山に行くんです」

そう話す望月さんの、柔らかな笑顔が印象に残った。

子どもの頃からの夢だった「カフェ」。その夢は今、家族との暮らしのなかに、すっかり馴染んでいる。のんびり、ゆっくり、無理をしない。今日も「Cafe Hütte」には、そんな望月さんらしい時間が流れている。季節のフルーツとクリームをサンドするシフォンケーキも、ふんわり、もっちりした食感で、やさしい味わいだった。
西谷 渉

Interview / text

西谷 渉

@ayumi.nstn
中村ナリコ

Photograph

中村ナリコ

Shonan diary 2026.09.16 wed
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