小町通りの脇道で、ゆっくり味わう一杯を。「ブルーボトルコーヒー 鎌倉カフェ」
緑が心地よく、爽やかな風を感じる季節。
鎌倉駅東口から歩いて5分ほど。
小町通りから一本脇道を入った場所に、新しいコーヒー店がオープンした。
観光客でにぎわう通りから少しだけ足をのばすと、
思いのほか、おだやかな時間が流れている。
5月末に開店した「ブルーボトルコーヒー 鎌倉カフェ」だ。
内覧会で迎えてくれたのは、
ブルーボトルコーヒージャパンのマネージャー、エリック・ジェンキンスさん。
この街に惹かれた理由や、鎌倉で育てていきたい店の姿について話を聞いた。

海街のコーヒー店が、鎌倉へ
アメリカ・オークランド発のブルーボトルコーヒー。
日本では2015年の東京・清澄白河店を皮切りに、各地で店舗をひらいてきた。
「もしオークランドに行ったら、鎌倉とすごく雰囲気が似ていると感じるはずです」
そう話すジェンキンスさんは、大学時代から日本文化に親しみ、沖縄への留学経験も持つ。日本での生活は通算12年目になるという。
じつはジェンキンスさん自身、もともとはブルーボトルコーヒーの熱心なファンだった。
青山店にオープン当初から通い続け、近所に住んでいたこともあり、週3~4回は足を運ぶこともあったそう。2024年にブルーボトルコーヒーからのオファーが届いたときには「運命を感じた」という。

そんなジェンキンスさんから見たオークランドと鎌倉の共通点は、街歩きの楽しさだ。
ぶらぶら歩いているだけで、思いがけない発見があり、地域の人たちとも自然に言葉を交わせる。知り合いでなくても会話がうまれる、人と人の距離感の近さも似ているという。
また、ブルーボトルコーヒーが大切にしている「こだわりをもつ人が集い、会話が生まれ、おいしいコーヒー体験を届けられる場所」という考え方にも、鎌倉の街は重なった。
「鎌倉には海外の人も、ローカルの人も、日本各地から訪れる人もいる。
伝統的なものも、モダンなものもあって、自然の美しさもある。なぜ今までオープンしていなかったんだろうと思うくらい、この街にぴったりだと感じています」

鎌倉らしい時間を過ごせる場所
「初めて鎌倉に来た日に見た、海辺の夕陽が本当にきれいだったんです。
街もチャーミングで、山も海もあって、どこへ行っても楽しい。
正直、帰りたくなかったですね(笑)」
出店にあたっては、チームで何度も鎌倉を訪れ、
さまざまなエリアや物件を見て回ったそう。
地域とのつながり方や街ごとの空気感を教わりながら、
近隣のカフェでコーヒーを飲み、街を歩く。
そうした時間もまた、出店までの楽しいプロセスだった。
そこでたどり着いたのが、小町通りと若宮大路の間にある「フィルパーク鎌倉」だった。
人通りの多いエリアにありながら、小道沿いなので落ち着きもある。
緑を感じるテラスも心地いい。
「もちろん、人が少ない場所では、ブルーボトルが大切にしている体験はつくれません。
でも、小町通りはにぎやかで楽しい一方、少し路地に入ると落ち着いた雰囲気になる。
鎌倉にひらくなら、ゆったりした時間のなかで、おいしいコーヒーを楽しんでもらいたいと思いました」
地域に愛される店を目指して
店内に入ると、まず目を引くのは、格子状のステンレスの天井だ。
「古都鎌倉の風景」をコンセプトにした空間デザインは、
ninkipen!(ニンキペン)の今津康夫さんが手がけたもの。

鎌倉文華館 鶴岡ミュージアムのピロティー天井に着想を得たという空間は、
モダンで洗練された印象を持ちながらも、どこかあたたかみがある。
照明や壁の一部には、コーヒーで染めた和紙が使われていて、
人の手の温もりも感じられた。
また、鎌倉店限定のエコバッグに描かれた紫陽花のモチーフは、
昨年訪れた長谷寺のアジサイからうまれたものだという。
店づくりのあちこちに、この街から受け取った風景や記憶が息づいているようだった。
「鎌倉の人たちにも、地域のコミュニティの一部だと感じていただけるように。
鎌倉のスピリットを理解していると思ってもらえるような場所に育てていきたいです」
今後は、コーヒードリップやラテアートのワークショップなども開催予定。
「去年、この場所を決めたときがちょうど春で、段葛の桜並木が満開だったんです。
初めて見る景色で、本当に感動しました。きっと鎌倉は、季節ごとに違った楽しみ方がある街なんだと思います」
そう語るジェンキンスさんの言葉から、この街への親しみがにじんでいた。
小町通りのにぎわいから少し離れた路地で味わう一杯。
そこにはコーヒーだけでなく、この街への親しみや敬意も込められているようだった。

Interview / text
西谷 渉