コロナ禍にたどり着いた、家族で住む街
「『家を買うなら、愛せる街に住みたい』と思ったんです」
もうすぐ2歳になる息子を膝に、奈未さんは穏やかに話しはじめた。
ともに都内の出版業界につとめる夫妻。
仕事のつながりで出会い、結婚後はしばらく夫・悠志さんがもともと住んでいた川崎のアパートで暮らしたが、夫婦で住む家を探すなかで、鎌倉に移り住んだ。
家探しをはじめた当初は、東京都内や神奈川のマンションを探していた。
お互いの勤務地に通いやすい田園都市線や東急沿線を中心に探し、二子玉川や用賀なども候補に入っていたが、なかなか気に入る物件にめぐりあえなかったという。
どんな街に住みたいかをあらためて夫婦で話し合ったときに一致したのが、
先ほどの言葉にある「愛せる街に住みたい」という想いだった。
そんな矢先に、鎌倉に暮らす悠志さんの友人から「鎌倉に来ちゃいなよ」と誘いの一言が。
そして実際に、知り合いの不動産を紹介してくれたり、
家探しを目的とした街歩きにも付き合ってくれたのだそう。
コロナ禍でリモートワークが普及しはじめたことも、後押しとなった。
「住む街という目線で、鎌倉に来てみたら、歴史もあるし、文化もあるし、
食べものもおいしいし、素敵なお店もあるし、海も山も自然もあって…。
ふたりとも『いいね!』となり、鎌倉で家を探すことにしました」と悠志さん。
イギリスに住んだことのある奈未さんは、
「ヨーロッパの小さな街が好きなので、こじんまりした街でのんびり暮らすというライフスタイルへの憧れもありました」と話す。
ふたりで初めて鎌倉を訪れたのが、2020年9月。
そして10月には物件を契約していた。まさにご縁のような速さだった。
さらに、こんなエピソードも。
「じつは、妊活をしてもなかなか授からず、このまま夫婦ふたりでもいいかなと思いはじめていました。でも、鎌倉に引っ越してから、わりとすぐに妊娠しました。
環境が変わって、ストレスが減ったのかもしれません」
2022年に長女、2024年に長男が誕生。
年子の姉弟と、16歳になる愛猫と、にぎやかな日々を過ごしている。

都心への通勤と、自然の近くの子育て
鎌倉での家探しの条件は、通勤を考えて、鎌倉駅から徒歩圏内であることと、
子どもができるかまだわからなかったので、夫婦ふたりでも大きすぎない広さ。
そして、生活になじめなかった場合に、また引っ越せるよう、リセールしやすい家。
それらの条件で探しはじめ、お部屋探しサイトをチェックする日々。
タッチの差で先を越されてしまった家もあったが、ほどなくして、まだ土地と間取り図だけだった新築の建売物件を見つけて、即座に申し込んだ。それが現在の住まいで、鎌倉駅から徒歩15分ほど、バス停やコンビニも近い、大町の住宅街にある。
近所に住むのは、たまたま移住組が多い。
「武蔵小杉から引っ越してきて、都内に通勤している夫婦など、働き方も似ていたり。
近所づきあいや、人との距離感がほどよい。べったりでもないし、離れているわけでもない、そのバランスがとても心地いいなと感じます」
子どもたちがまだ幼いこともあり、奈未さんは週2日出社、悠志さんは週1日出社で都内まで通い、あとは自宅からリモートで働く。子どもたちが通う保育園にも、似たような環境の家族が多いことも心強い。
電車での通勤については、高校時代から1時間以上かけての電車通学をしてきた悠志さんは苦にならず、むしろ電車の中で本を読んだり、通勤時間を有効活用しているとか。一方で、中高を自転車通学していた奈未さんは、現在は週2日なので続けられるが、妊娠中はつらかったとふり返る。

嬉しかったのは、子どもが生まれて、地域とのつながりがふえたことだ。
「近所に同世代の子どもがいる家族が何組か住んでいて。子どもも、ママも同じ歳くらい。近くの踏切で電車を見ていたり、散歩中に自然と知り合って、今では家族で一緒に遊ぶ仲になりました」
週末は、子どもたちを連れて、由比が浜の海浜公園や、材木座の海、お猿のいる逗子の披露山公園といった、近場の自然のなかでのんびり過ごす。遠出をするといっても、辻堂のテラスモール湘南や横須賀のスーパーに行くくらいだ。
「海に、公園に行くような感覚で行けるのは嬉しいですね」と悠志さん。
さらに、奈未さんが、大町の良さをもうひとつ、教えてくれた。
「毎年ホタルの季節になると、近所の小川でホタルがたくさん見られるんです。
去年も毎晩のように、夜ごはんの後にホタルを見に行きました。大町らしい季節の楽しみ方のひとつです」
それぞれの「好き」が息づく街
鎌倉に暮らしはじめて、もうすぐ5年を迎える。
海辺の暮らしも、子育ても、ゆるやかに根づいてきた。
住んでみて感じる鎌倉らしさや、街の好きなところを尋ねてみた。
「鎌倉は、人生を楽しんでる人が多い。自分の好きなことを追求していたり、好きなことをやっている人がすごく多い、というのを感じていて。それが、自分にとってはすごく刺激にもなるし、楽しいと思いますね」と悠志さんは語る。
例えば、鎌倉移住を誘ってくれた悠志さんの友人・藍田留美子さんは、お店の黒板やガラス窓に手描きで魅力を届ける「黒板マーケター」として活動している。ほかにも、仕事や趣味にかかわらず、さまざまな形で自分の「好き」を深めている人が周りにたくさんいるという。
一方で、奈未さん。
「個人商店が元気なところが好きです。近所にもちょっと歩くと、ケーキ屋さんやカフェとか、素敵なお店がたくさんある。大手のチェーン店ではない、地域のおもしろいお店を、住民としても応援したいなと思います」と話してくれた。
「愛せる街」探しからはじまった家探し。
鎌倉での自然な人とのつながりや巡り合わせのなか、
一歩も二歩も、理想の暮らしを叶えている。
海のそばで、のびのび育つちいさなふたりの成長も楽しみだ。

Interview / text
西谷 渉
Photograph
中村ナリコ