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茅ヶ崎で見つけた、自分らしい暮らしと働き方

茅ヶ崎で見つけた、自分らしい暮らしと働き方

「CRAYD BOOKS & COFFEE」吉田悠希さん

「海の近くに住みたい」から始まった移住

心にもやもやが生まれ、
ふと仕事や暮らしに迷いが出てきたとき、
自分と静かに向き合える居場所があったならーー。

茅ヶ崎のサザン通りと鉄砲道の交差点からほど近く。
海街らしい空がひらけた中海岸の通り沿いに佇む、
独立系書店「CRAYD BOOKS & COFFEE(クレイドブックス&コーヒー)」は、
そんな一軒だ。

店主の吉田悠希さんは、湘南への移住者が増えたコロナ禍に、
まさに夫婦ともに仕事がフルリモートになり、移住してきたひとり。

結婚後は、東京・江古田に住んでいたが、通勤の制約がなくなると、
「海の近くに住みたい」と、湘南エリアが思い浮かんだ。

住む街を見に、東海道線沿線を夫婦で歩いてみたとき、
吉田さんがいちばん気に入ったのが、茅ヶ崎の街だった。

「じつは、茅ヶ崎に住むまでは、海とサザンしかイメージを持っていませんでした。
でも、個人経営の商店がたくさんあって、街に活気があって。
ほかの湘南の街と比べても、空気がよりゆっくり流れているように感じました」

夫の圭佑さんとも一致して、茅ヶ崎の海の近くのエリアで家探しをすることに。
ようやく見つけた集合住宅に暮らしはじめたのは、2020年の春だった。

「実際に住んでからは、もっと街のことを好きになっていきました。
海に行くと、いつも黄昏ている大人がいるんです。そういう光景もいいなと思います」

本とコーヒーと、自分への問い

茅ヶ崎に引っ越して6年目。
気軽な引っ越しのような感覚で住みはじめた吉田さんにとって、
当初は、お店をする計画や、ましてや家を建てる予定も、まったくなかったという。

書店をはじめる前、会社員や教員などの職に就いていた吉田さんは、
これからの働き方や暮らしに悩み、ふと立ち止まった時期があった。
会社に行けなくなってしまったのだ。

「好きなことを仕事にしてみたら?」という夫の一言に背中を押され、
小さな頃から好きだったものや、意識しなくてもできること、
大切にしたい価値観などをひとつずつ洗い出してみることに。
そうして浮かびあがってきた選択肢のひとつが「本屋」だった。

そこから、本屋を開業するための講座に参加したり、
関東近郊の本屋巡りをしながら、つながりを少しずつ増やし、
1年間ほどかけて開店準備をすすめていった。

店名の「CRAYD」は、「Cloud(雲)」と「Ray(光)」を組み合わせた造語だ。
「もやもやした雲の間に差し込む一筋の光のように、小さな希望を見つけられたら」という願いが込められている。

「BOOKS & COFFEE」と名前にある通り、
店内にはカフェも併設されていて、コーヒーは悠希さん、自家製のお菓子は圭佑さんが担当している。

「夫がもともと老後にカフェをやりたいと言っていたんです。
本とコーヒーは親和性も高いので、すこし早く夢を叶えてもらって(笑)
一緒にやることにしました」

住まいとお店。
全体の家賃を少しでも抑えるために、店舗兼住宅を建てることに。
地元の工務店にゼロから相談しながら、住宅の1階部分にあたる店舗空間をつくりあげた。
そして、家を建てる半年ほどの工期の間に、約1000冊の本を吉田さんが自ら選書した。

「『自分の人生を生きる』というのが、今の自分のテーマでもあり、お店の裏テーマなんです」と吉田さんは語る。

「辛いときに読んで安心感を得られるような“ホッとする本”と、こういう生き方をしてもいいんだという驚きや、自分に対する気づきを得られる“ハッとする本”。

生きることを見つめ直す、“問い”をくれる本を選んでいます」

人と人がつながる、本屋という居場所

満を持して、2026年1月にオープン。
茅ヶ崎に住みはじめた頃は、それほどご近所づきあいはなかったというが、
お店をはじめて、地域の人との関わりも自然と増えた。

「茅ヶ崎は、街全体で、新しいことをやろうとしている人を応援してくれる雰囲気をとても感じます。こちらからは何もお願いしていないのに、お客さんがSNSでタグづけして投稿してくださったり、すごくうれしいことを書いてくださったり。やさしい人たちが多くて、茅ヶ崎でよかったなと改めて感じています」

2年前。生きる道に悩み、落ち込むことが続いた吉田さんは、
本屋さんをはじめて、人のやさしさや温かさに触れ、
少しずつ心が満たされていった。

選書のこだわりのほか、力を入れているのが対話のイベントだ。
平日は地元の人がのんびりカフェをしにくることが多いが、
週末のイベントには県外から訪れる人もいる。
著者が自ら、お店を訪ねてきてくれることも多いそうだ。

「インプットするだけだと自分に対する理解があまり深まらない。
話すことで、自分自身を知ることもあると思うのです。

イベントはお客さんにも毎回とても楽しんでいただけるので、対話の場はこれからも続けていきたいですね」

「自分の人生を生きる人を増やす」というミッションを掲げ、
茅ヶ崎の街で、自身も自分らしいと思える道を歩みはじめた吉田さん。

最後に、移住を考えている人たちへの言葉をもらった。

「茅ヶ崎は空気がゆったりしていて、自分の人生を謳歌している人が多い印象があります。
都会で疲弊している方は、こちらに住んでみると、休日くらいは気を張っている自分から離れて、肩の力を抜いて楽しめるんじゃないかなと思います。ちょっと違う空気を感じに、ぜひ来てみてほしいです」

店内の本棚を眺めていて、あることに気づいた。「働き方」「健康」「多様性」といったジャンルごとの区切りが、あえて設けられていないのだ。それでいて、どこかゆるやかにつながりのある本たちが隣り合わせに並んでいる。その日の気分で棚の前に立ち、思いがけない一冊と出会う。そんな偶然を楽しめるのも、この本屋の魅力なのかもしれない。
西谷 渉

Interview / text

西谷 渉

@ayumi.nstn
中村ナリコ

Photograph

中村ナリコ

Shonan diary 2026.07.30 thu
Living in Shonan...