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鵠沼のキッチンから、心と体を元気にする食を届けたい

鵠沼のキッチンから、心と体を元気にする食を届けたい

「点心・発酵薬膳ごはん和(ニコ)」さいとうゆみこさん

結婚を機に、スタイリストを辞めて鵠沼へ

小田急線の鵠沼海岸駅を降りると、鎌倉や逗子ともまた違う、
こじんまりとした、心地いいビーチタウンの香りがただよう。

商店街のメインストリートには、飲食店や惣菜屋、スーパーなど、生活感あふれる商店が並び、単館上映のミニシアターもある。その通りを歩いた先に、小屋のような屋台のような佇まいの一軒、「点心・発酵薬膳ごはん和(ニコ)」がある。

この店を切り盛りするさいとうゆみこさんは、鵠沼で20年近くも飲食店を営んできた。
その面倒見のいい、気さくな人柄で、地元の人たちにとても慕われている。

都内で料理雑誌の編集者やスタイリストとして、忙しくも充実した日々を送っていたさいとうさんは、サーフィンが好きで、鵠沼海岸に住んでいたパートナーとの結婚を機に、湘南に移り住んだ。

東京からの移住者が今よりもずっと少なかった時代。
知り合いのいない鵠沼の街での新生活のなか、25歳で母となった。

「最初に声をかけてくれたのは、八百屋のおかみさんでした。
今思い返すと、鵠沼海岸の個人商店のみなさんは当時からあたたかくて。
新しく来た人にも、住みやすい街だったなと思います」

「好き」を問い続けた寄り道の時間

東京・世田谷で生まれ、8人兄弟の4番目として育ったさいとうさん。
家族の中では、自然と間に入るような立ち位置だったという。

子どもの頃から「早く社会に出たい」という気持ちがつよく、
中学生の頃には、先生に労働時間を聞いていたというエピソードもある。

「一日の三分の一も働くなら、好きなものを見つけないと続かないと思ったんです」

その問いのなかで、最初に見つけた「好きなもの」が料理だった。
小学生の頃からキッチンに立ち、家族の食事を作ることもしばしば。
10歳年上の姉の料理本を眺めては、異国の料理やお菓子に心をときめかせていた。

休みの日も友達と遊ぶよりも、ひとりでパン屋やケーキ屋を食べ歩きするような「ちょっと変わった高校生だった」という。しかし、アルバイト先で体験した料理の現場は、思いのほか厳しく、「好きなことを嫌いになりたくない」と、いったんその道から離れることを決意。

たどり着いたのが、当時流行り出したばかりの料理雑誌『レタスクラブ』の編集のアルバイトだった。その後、縁がつながりスタイリストに転身。憧れのスタイリストに2年半ほど師事したが、結婚と妊娠がかさなり、仕事を辞めて湘南に引っ越すことになった。

子どもが3歳になるまでは専業主婦として過ごしたが、ふたたび社会に出て働きたいと思ったとき、心に浮かんだのは「手をつかう仕事」だった。そして、マッサージの道へ。
リフレクソロジーという足裏のマッサージを体験し、体が驚くほど軽くなった感覚に衝撃をうけたという。

「子育てで疲れていた時期だったので、足だけで、こんなに元気になれるのかと驚きました」

学校で学び、免許を取得すると、すぐにサロンで働きはじめた。その後はアロマセラピーの資格も取り、全身マッサージを行うセラピストとして活動するようになる。

子育てを通して出合った「薬膳」

そしてこの頃、マッサージと並行して、次第に関心が向いたのが食養生だった。
子どもが4歳になる頃、食事を見直そうとマクロビオティックに取り組んだが、丁寧さを大切にする調理法のため、暮らしの中に取り込むことが少し大変に感じたという。そんなときに出合ったのが「薬膳」だった。

「薬膳を勉強したときにいちばんピンときたのが、『身近にある食べものは全部薬』という考え方です。特別な食材をそろえなくても、誰にでもできる。それがすごく腑に落ちました」

学んだおもしろさを、もっと身近な場所で共有したい。そう考え、2007年に本鵠沼の駅の近くの、わずか5坪の小さな空間でスタートしたのが「薬膳ごはん 和(ニコ)」だった。

屋台のような佇まいの小さなお店は、近所の人がふらっと立ち寄って、近況を話していく。
そんな関係性が自然に育まれたのも、鵠沼という街の気質なのかもしれない。

「最初は家族の反対もありました。でも、お店を始めてみると、子育てに悩む人や身体に不調がある人が来てくれて。話をすることで、少し安心できる場所になっていった気がします」

さいとうさんの想いは、いつも変わらない。

「食べものを通して、いろんな人の心と体を元気にしたい」

そのために、新しいことを学び続け、必要だと思えば柔軟に取り入れてきた。
人情深く、目の前の人といつもまっすぐに向き合ってきた。

だからだろうか。「ただいま」と言いたくなる空気感がある。

次のフェーズへ。鵠沼でひらく場

36歳でお店を構えて、今年で17年。
昨年はホルモンバランスについて体系的に学び、今は「薬膳の学校」をひらく準備を進めている。

「店名は変えませんが、通称は『ニコステーション』にしようと思っています。

『人生は旅である』という言葉が好きで。生きていくことは、いろんな経験=いろんな旅をすることだと思うのです。旅には、途中で休む場所も必要ですよね。ここが、そんな“下車する駅”のような場所になれたらと思っています」

人のつながりを大切に、ゆっくりと次のフェーズへ。
『和(ニコ)』はこれからも、鵠沼に暮らす人たちの心と体をそっと支える場所であり続けるだろう。

おすすめの一品「点心3種セットプレート」

紅麹を使ってほんのり色づけした海老蒸し餃子、もちもちとした里芋入りの生地がおいしい小籠包など、点心はどれも本場中国の「老面(ろうめん)」という発酵種を使った本格派。つけあわせのお惣菜や薬膳スープも滋味深く、体の内側からじんわり元気になっていくのを感じた。
西谷 渉

Interview / text

西谷 渉

@ayumi.nstn
中村ナリコ

Photograph

中村ナリコ

Shonan diary 2026.02.05 thu
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